うえぽんSW局

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タグ:ミステリ

 アガサ・クリスティーの『そして誰もいなくなった』を読了。
 有名な作品ですが今まで未読でした。アガサ・クリスティーの他の作品も読んだことがないので、自分にとっては初めてのアガサ・クリスティーです。
 これでネタバレを恐れずに生きていけます。

 ちなみに、自分が読み終わったのとタイミングを良くして、テレビドラマ版の放送も発表されました。
 今春、テレビ朝日で2夜連続スペシャルで放送される予定とのこと。
 脚本は『弟切草』や『街』の長坂秀佳だそうです。
 そして誰もいなくなった:アガサ・クリスティの名作が国内初の映像化 仲間由紀恵、向井理ら豪華キャストで - MANTANWEB(まんたんウェブ)


そして誰もいなくなった (クリスティー文庫)
アガサ・クリスティー
早川書房
2012-08-01



 以下、内容に触れた感想なので文字色は薄め。

●「そして誰もいなくなった」は童謡の歌詞
 読む前は「そして誰もいなくなった」というタイトルはネタバレではないのか? と疑問に思っていた。
 しかし、読んでみるとタイトルは劇中で登場する童謡の歌詞から取られていることが分かった。
 いわゆる見立て殺人というもので、童謡になぞらえて殺人事件が行われる。
 つまり、その童謡の通りに「そして誰もいなくなる」のか? というのが注目の一つであり、そこを明かしてしまうといよいよネタバレになってしまう。

●容疑者全員の心の声まで描写されている
 驚いたことに全員の心の中まで描写されている。
 全員ということは犯人の心の声までも書かれていることになる。それなのに誰が犯人なのか簡単には分からない。これもいわゆる叙述トリックに含まれるのだろう。
 ある章の最後にいたっては誰の心の声か伏せつつ全員の心の中だけを描写することをやっている。その中の一つは犯人のはずなので、そこをじっくり読んだのは自分だけではないはず。
「そして誰もいなくなった」心の声

●自分の犯人予想は的中
 次のように推理して犯人を当てることができた。
 犯人の犯行声明はレコードによって行われた。レコードの内容は全員の過去の罪を断罪すると宣言するもの。そこに挙げられた罪は世間に発覚していないものや法律によって裁けないものばかりである。
 さて、犯人はなぜこれらの罪を知ることができたのだろうか? と疑問に思った。それを知ることができる立場の人物が犯人ではないかと予想。そういうことができる職業に就いているあの人物が一番怪しい、と推理した。
 この推理は見事に的中した。まぁ、最後の方でひと波乱あり、そのときは犯人は別人ではないかと少し思ったりもしたわけですが。
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 以前、三大奇書の一つ『黒死館殺人事件』(小栗虫太郎)を読みましたが、今度は同じく三大奇書の一つである『ドグラ・マグラ』(夢野久作)を読み終わりました。
 これも青空文庫で読めます。

 青空文庫:図書カード:ドグラ・マグラ

ドグラ・マグラ
夢野 久作
2012-10-01





 実は読む前は卑猥でグロい小説だと勘違いしていました。
 おそらく角川文庫版の表紙絵が女性だか男性の局部を「角川文庫」と書かれた黒塗りで隠していたために卑猥なものだと勘違いしてしまったのかもしれません。
 エロでもグロでもホラーでもないです。

 三大奇書ということでミステリ(推理小説)でありながらミステリらしからぬ作品です。
 おそらく今ならSFに該当すると思います。
 作品が発表されたのが戦前の昭和10年(1935年)のため、当時はまだSFが一般的ではなかったのでしょうか。

 昭和10年発表ということですが、今でも十分通用する内容です。
 推敲に10年は要しているらしいので、昭和どころから大正に初稿が書かれたことになります。
 大正時代でこれはオーパーツ的な小説だと思います。
 現代ならDNAとかミトコンドリアで説明してしまうところを、それ以外のもの(胎児の夢)で説明しているのが逆に新しく感じました。

 これから読む人にアドバイスすると、チャカポコで躓いたという人を多く見かけますが、チャカポコは「結構毛だらけ猫灰だらけ」のリズムと読むとスラスラ読めます。映画『男はつらいよ』の寅さんが物を売るときの口上のようなことをやっているわけです。



 以下、内容に触れた感想。

●正木教授と若林教授が同時に出現していない
 自分の見逃しがないなら主人公“私”の目の前にこの2人の教授は同時に出現していません。同時出現は手記などの伝聞形式のときだけです。
 これはもしや2人の教授は同一人物というトリックでは? と一瞬疑いました。
 しかしこれは簡単に否定できました。2人の背格好(身長と体付き)が、片方は小柄でもう片方が大男と全く違うからです。人相だけなら変装して一人二役を演じられますが、背格好までとなるとそう簡単には変えられません。ゆえに人が同一人物という説は否定されます。
 それにしてもこの2人は、イニシャルがそれぞれ(M)と(W)だったりと、色々と対照的になっているようです。

●結局“私”は誰なのか
 答えが書いてないので複数の解釈をすることができます。
 自分の解釈は、“私”は呉一郎で、その呉一郎が妄想の中でさらに妄想を見ていたという二重構造の物語だったというありふれたものです。そう解釈するのが普通ではないでしょうか。。
 しかし、どこのサイトか忘れましたが、ネット上の考察の中に「“私”はモヨ子の胎児で、その胎児が見ていた夢である」という説がありました。言われてみるとたしかにその説でも通じます。その解釈は面白いです。


 他にも読んでる最中に思ったことはあるはずですが、うまくまとめられないのでこれだけです。いつか再読したときにまた感想を書くかもしれません。
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 今月1日で江戸川乱歩の作品がパブリックドメインとなりました。青空文庫では大正12年に発表されたデビュー作の『二銭銅貨』が公開されています(青空文庫該当ページ)。まだこの1本しか公開されていませんが、本格的な公開は2月以降になるそうです。

 そういうわけで早速『二銭銅貨』を読んでみました。
 内容は、釣銭でもらった二銭銅貨がマジックコインであることに気づき、中から暗号が書かれたメモを発見。この暗号は盗まれた大金5万円の隠し場所を記したものだったというものです。

 さて、この“5万円”は現在の価値にするといくらになるのだろうか?
 気になったので色々と計算してみました。


◆まずは作中の情報から概算
 まず最初にやったのは大雑把な概算です。読書をストップして資料を調べたくありません。そこで作中の情報から手早く概算してみました。フェルミ推定のようなものです。
 まずは作中の以下の部分に注目しました。
 『一番の支那鞄に一杯もあろうという、二十円、十円、五円などの紙幣を汗だくになって詰込んでいる最中に
 『細い紙幣には手もつけないで、支那鞄の中の二十円札と十円札の束丈けを持去ったのである
 この部分から、二十円札、十円札が当時もっとも使われていた高額紙幣であると推測。
 おそらく経済規模に適した額面の紙幣がもっともよく使われているに違いないと推理。
 現在もっとも使われている高額紙幣は一万円札と五千円札であろう。
 当時の二十円札は現在の一万円札に相当するならばその比は500倍。
 すなわち大正12年の5万円は現在の価値で2500万円と推定できる。
 と、読書中に十数秒で概算しました。あくまでも桁数が当たっていれば良いや程度の大雑把な概算です。


◆答え合わせ1
 曇天文庫さんが公開しているものには注釈で現在の価値が書かれていました。
 江戸川乱歩「二銭銅貨・人間椅子 他41編」 - 曇天文庫
 『(今の二千万円程度)』と注釈があります。
 底本はちくま文庫『江戸川乱歩全短編』とのことなので発行は1998年です。
 自分が出した2500万円という概算にかなり近い数字です。おもわず鼻が少し高くなります。


◆答え合わせ2
 ネット検索してみたら以下のブログでも5万円の現在価値を計算していました。
 大正時代の5万円はいくら?|備忘録
 日本銀行ホームページにある『昭和40年の1万円を、今のお金に換算するとどの位になりますか?』というページを参考にして大正12年と平成21年の“企業物価指数”を比較したそうです。その結果、大正12年の5万円は現在の貨幣価値で約2580万円となるようです。
 これまた自分が出した2500万円に近い数字となりました。ますます鼻が高くなります。


◆しかし商品の値段を比べると…
 大正時代の商品の値段と現在の値段を実際に比べて見ることにしました。
 参考にしたのはYahoo!知恵袋の以下の質問のベストアンサーです。
 大正時代の100円は、現在の価値ならどれくらいの金額になりますか? - Yahoo!知恵袋
 以下引用。
値段史年表(朝日新聞社より抜粋)


週間朝日 10銭 (大正11年)
映画 20銭 (大正7年)
銀座木村屋のアンパン 2銭 (大正6年)
太田胃散 30銭 (明治31年-昭和18年)
うな重(並) 40銭 (大正4年)
コンサイス英和辞典 1円30銭 (大正6年)
日本橋たいめんけんのカレーライス 7-10銭 (大正6年)
小学校教員初任給 12-20円 (大正7年)
銀座ライオンのビール 18銭 (大正7年)
レコード(SP) 1円50銭 (大正3年)
板橋の3LDKの家賃 5円20銭 (大正3年)

現在の値段と照らし合わせてみると、約5000〜20000倍程度ではないでしょうか?

 前の計算では500倍前後でしが、実際に商品の値段を比べてみると5000倍以上あったようです。大正時代の5万円は現在の価値で2億5000万円以上ということになります。高くなった鼻がへし折られました。


◆国家公務員初任給から計算
 初任給による比較はよく使われるのでその計算もしてみます。
 以下のページに大正時代の国家公務員初任給が掲載されていました。
 明治~平成 値段史
 大正12年は75円で、2015年は183200円とのことです。
 約2400倍となるので、この計算方法では大正時代の5万円は現在の価値で約1億2000万円となりました。
 前項の商品の値段と比較しても最初に出した概算よりは妥当なような気がします。


◆最後に
 大正12年の5万円は、低く見積もって2500万円、高く見積もって2億5000万円、となりました。
 一概にこれとは言えないようなので、目安になれば良いと思います。
 ちなみに、二銭銅貨の額面(二銭)の価値は現在の10円から100円ということになります。二銭銅貨はタバコのおつりとして貰ったものなので、現在だと五百円玉を出して百円玉のおつりを貰った感覚ではないでしょうか。
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 曇天文庫でまとめられているシャーロック・ホームズのシリーズを読了。
 青空文庫プロジェクト杉田玄白で公開されている翻訳を、koboやkindleで読める形式にしてまとめたものです。
 アーサー・コナン・ドイル「シャーロック・ホームズ」 - 曇天文庫(リンク切れ)

 最近NHKでやっていた人形劇や、かつて宮崎駿も関わった犬を擬人化したアニメは見ていたのですが、原作は今まで読んだことがありませんでした。
 たまたま何の気なしに読んでみたら結構面白かったので、曇天文庫でまとめられている分を全部読んでしまいました。
 ほとんど短編なので一つの事件を30分〜1時間ぐらいで読めてしまうのがお手軽で良かったです。

 数々の事件の中で一番気に入ったのは『赤毛連盟』です。原題はThe Red-Headed Leagueで、邦題は他にも『赤毛組合』『赤髪組合』『赤髪連盟』『赤毛クラブ』などあるそうです(wikipediaより)。

 というわけで、今回は『赤毛連盟』の導入部分のあらすじ漫画にしてみました。
 おそらくこれだけでも推理できると思います。結末の部分は描(書)きません。自分で推理してください。答えは青空文庫で読めます


【コミPo】【1ページ漫画】赤毛連盟


 質屋の御主人が全く意味のないことをさせられているのが実は別の人物にとっては意味のある行為、というのがナンセンスでユーモラスな話だなと思います。
 こういう話はミステリよりもショートショートに引き継がれているのではないでしょうか。
 星新一の作品に『シャーロック・ホームズの内幕』というのがありましたが、それがこの『赤毛連盟』のパロディとなっています。他にも『赤毛連盟』のトリック(通称“赤毛トリック”)を使った作品がいくつかあったと思います。


【余談】
 それにしてもシャーロック・ホームズが現代では考えられない危ない薬をやっているのに驚いた。
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 『黒死館殺人事件』(小栗虫太郎)をなんとか読了。

黒死館殺人事件
小栗 虫太郎
2012-09-27



 読むのにかなり苦戦しました。本当に“なんとか”読み終えました。
 読んだといっても内容を完全に理解できたか自信はありません。
 コミカライズ版(漫画版)もあるそうなので、次はそれで復習しようかと思っています。
 
 『黒死館殺人事件』は、『ドグラ・マグラ』(夢野久作)や『虚無への供物』(中井英夫)と並んで日本三大奇書といわれています。
 三大奇書などといわれると、きっと面白い名作なのだろうと思うかもしれません。
 しかし、実際に読んでみると、名作というよりは奇妙な作品ととらえた方が良いことがわかります。
 奇妙であるがゆえに読むのに苦戦します。途中で挫折する人が続出しているようです。ネット検索するとチャレンジした人たちの阿鼻叫喚の数々が見られるはずです。

 三大奇書はいずれも推理小説です。そしてアンチ・ミステリーでもあります。
 アンチ・ミステリーとは「推理小説でありながら推理小説であることを拒む」というジャンルだそうです。(アンチ・ミステリー - Wikipedia

 『黒死館殺人事件』も当然推理小説です。
 黒死館と呼ばれる館で殺人事件が発生し、探偵役(法水麟太郎)がその犯人をみつけようとします。
 ここまでなら普通の推理小説です。
 しかしこの探偵役である法水麟太郎がくせ者だったりします。
 どのようにくせ者かというと、とにかく薀蓄を大量に披露してくれます。なんとその薀蓄の数々は事件とは一切関係なかったりします。一見事件と関係がありそうな雰囲気で薀蓄を語りだしますが、読者はそれを何ページも読まされてから事件と関係ないことに気づかされます。
 この薀蓄のたちの悪いところはは、殺人事件の解決に必要な情報を埋没させてしまうことです。
 「木を隠すなら森」といいますが、この推理小説では大量の薀蓄によって必要な情報を隠すというなんとも奇妙な手法が使われています。

 まあ、つまり、読者にとって最大の敵は探偵役の法水麟太郎ということになります。
 探偵役が敵というのはかなり変わった小説だと思います。
 ちなみに、この薀蓄の数々はあまり面白くないです。蘊蓄の真偽も分かりません。薀蓄が面白ければ読むのに苦労はしなかったのですが……。



 ところで法水麟太郎が主人公の作品は他にもあります。
 ほとんどが短編で、『黒死館殺人事件』と比較すると薀蓄もあまり垂れ流していないので、比較的さくっと読めます。
 青空文庫で読める限りは読んだので、以下はそのメモというかネタバレです。
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