『夜歩く』(横溝正史)を読了。
 金田一耕助が事件を解決する推理小説です。




■作者が選ぶベスト10の第10位
 『真説 金田一耕助』というエッセイに作者が選ぶ金田一耕助もののベスト10が載っていますが、『夜歩く』はその中で第10位に選ばれています。
 選ばれた理由が文庫本の売れ行きが良いからというあまり積極的なものでなかったりしますが、売れ行きが良いのにはやはり理由があるわけで、実際に読者の人気は意外と高いようです。
 こんなまとめもあります。
 横溝正史『夜歩く』が好き! - Togetterまとめ

■一人称で書かれている
 三流小説家の屋代寅太を視点にする一人称で書かれています。これまで読んできた中では『八つ墓村』以来の一人称形式です。それ以外はほとんどY先生(横溝正史)視点による三人称でした。
 三流小説家による一人称とはいうものの、実際に書いてるのはY先生(横溝正史)だったりするわけで、三流小説家にしては筆が立つなぁと思ったりしました。

■顔のない死体のトリック
 横溝正史は推理小説における三大トリックとして「密室」「顔のない死体」「一人二役」の三つをあげています。
 これについては『黒猫亭殺人事件』の劇中でY先生(横溝正史)自らが説明しています。
 その説明によると「顔のない死体」ではほぼ間違いなく死体役と犯人役が入れ替わっているとのこと。犯人は死体を自分と思い込ませることで自分の死を偽装し、その間に逃亡するという筋書きというわけです。
 今回読んだ『夜歩く』では首のない死体(すなわち「顔のない死体」)が登場しており、もうこれは死体と犯人が入れ替わっていると思って間違いなさそうなのですが、さてさて、そう簡単にいかないのが面白いところですね。

■好きなシーン
 このシーンが好きです。
『夜歩く』のあのシーン


 金田一耕助は犯人による殺人を許してしまうケースが多いですが、『夜歩く』ではなんと未然に殺人を防いでいます。
 寸前のところで止めるというのが映画みたいでちょっと格好良かったりします。



 以下は核心に触れるネタバレのため注意。
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■叙述トリック
 一人称で書かれている時点で何か引っかかるものがありましたが、見事な叙述トリックでした。
 「信頼できない語り手」というものですね。
 信頼できない語り手とは - ニコニコ大百科
 ちなみに、犯人を知ってしまった状態で読み返すと、普通の倒叙ミステリー(『刑事コロンボ』や『古畑任三郎』のタイプ)としても読めなくもないと思います。