『黒死館殺人事件』(小栗虫太郎)をなんとか読了。

黒死館殺人事件
小栗 虫太郎
2012-09-27



 読むのにかなり苦戦しました。本当に“なんとか”読み終えました。
 読んだといっても内容を完全に理解できたか自信はありません。
 コミカライズ版(漫画版)もあるそうなので、次はそれで復習しようかと思っています。
 
 『黒死館殺人事件』は、『ドグラ・マグラ』(夢野久作)や『虚無への供物』(中井英夫)と並んで日本三大奇書といわれています。
 三大奇書などといわれると、きっと面白い名作なのだろうと思うかもしれません。
 しかし、実際に読んでみると、名作というよりは奇妙な作品ととらえた方が良いことがわかります。
 奇妙であるがゆえに読むのに苦戦します。途中で挫折する人が続出しているようです。ネット検索するとチャレンジした人たちの阿鼻叫喚の数々が見られるはずです。

 三大奇書はいずれも推理小説です。そしてアンチ・ミステリーでもあります。
 アンチ・ミステリーとは「推理小説でありながら推理小説であることを拒む」というジャンルだそうです。(アンチ・ミステリー - Wikipedia

 『黒死館殺人事件』も当然推理小説です。
 黒死館と呼ばれる館で殺人事件が発生し、探偵役(法水麟太郎)がその犯人をみつけようとします。
 ここまでなら普通の推理小説です。
 しかしこの探偵役である法水麟太郎がくせ者だったりします。
 どのようにくせ者かというと、とにかく薀蓄を大量に披露してくれます。なんとその薀蓄の数々は事件とは一切関係なかったりします。一見事件と関係がありそうな雰囲気で薀蓄を語りだしますが、読者はそれを何ページも読まされてから事件と関係ないことに気づかされます。
 この薀蓄のたちの悪いところはは、殺人事件の解決に必要な情報を埋没させてしまうことです。
 「木を隠すなら森」といいますが、この推理小説では大量の薀蓄によって必要な情報を隠すというなんとも奇妙な手法が使われています。

 まあ、つまり、読者にとって最大の敵は探偵役の法水麟太郎ということになります。
 探偵役が敵というのはかなり変わった小説だと思います。
 ちなみに、この薀蓄の数々はあまり面白くないです。蘊蓄の真偽も分かりません。薀蓄が面白ければ読むのに苦労はしなかったのですが……。



 ところで法水麟太郎が主人公の作品は他にもあります。
 ほとんどが短編で、『黒死館殺人事件』と比較すると薀蓄もあまり垂れ流していないので、比較的さくっと読めます。
 青空文庫で読める限りは読んだので、以下はそのメモというかネタバレです。
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『後光殺人事件』
 僧侶がお経を唱えている間に仏像をライトアップ。僧侶は仏像に後光が差すという奇跡が起こったと勘違いし、放心状態。その隙に犯人は僧の背後から脳天を突き刺し殺害。

『夢殿殺人事件』
 強直によって関節がピンッと伸びるのを利用。死体にヒモを巻き付けておき、強直が始まると紐の捻じが解けて、死体が独楽のように回転する。

『オフェリヤ殺し』
 舞台装置のベルコンベアーを利用して遠隔殺人。ベルトコンベアーに刃物を取りつけ、ターゲットの首を掻っ切る。凶器の刃物はベルトコンベアーを一周して手元へ戻ってくる。

『聖アレキセイ寺院の惨劇』
 鐘を傾けその隙間に氷柱ができるのを確認し、氷柱を鐘のストッパーにする。あとは鐘に電流を流し、ストッパーの氷柱を融かし、鐘が元に戻ることで鐘が鳴る。

『失楽園殺人事件』
 時価一千万円のコスター聖書がどこかに隠されていると思われていたが、隠し物をコスター聖書に喩えていたただけだった。コスター聖書は存在せず、犯人はその比喩に踊らされたこととなる。

『人魚謎お岩殺し』
 行方不明になっていた男が、老人に変装して一座にまぎれ込んでいた(もしこれが現代だと映画やドラマの撮影陣に犯人がまぎれ込んでいる感じ)。短編の割には登場人物が多く、全員を把握するのが少々難しいかもしれない。これは犯人を隠す意図があってのことかもしれない。

『潜航艇「鷹の城」』
 『人魚謎お岩殺し』に続きこれも死んだと思われていた人物が実は生きていたパターン。船員の多くが失明しているためバレなかった。